その5:「おっぱいと少女」(全10回)


あれからオイラは大急ぎでレンタルハウスでサポ白にチェンジして、砲台へと戻った。
まずはアヤメをレイズで蘇生しようとしたら、誰かが砲台へと近づいて来る足音が聞こえてきた。

ま、まずい…!アヤメが戦闘不能になって倒れているのが見つかったら、弁明のしようがない…!
キャリーに猫モを運ばせ、アヤメはオイラが引っ張り、それぞれ物陰へと隠れた。幸い砲台には弾薬の箱が山積されていて、隠れる場所には困らない。

「アヤメ〜。隊長からの伝言なんだけどよー」

緊張感に欠けた声をあげながら砲台に入って来たのは大統領府前にいた門番だった。

「あれ?いねぇのか。ちっ…あいつ普段偉そうにしてるくせにサボりかよ」

門番のその言葉を聞いて、オイラが抱きかかえている戦闘不能のアヤメからゆらりと殺気がたちのぼった。
あの門番はアヤメの同僚なのかな?よく見てみると門番もオイラから見てとてとてだ。門番のくせに強いんだな。
その門番は砲台に居座ってなかなか出て行こうとはしなかった。はやくどっか行ってくれないかな…。

「…帰ってこねぇなアイツ。便所にしては長ぇな。大のほうか?」

ふたたびアヤメからゆらりと殺気がたちのぼった。
い、いろんな意味で早く出て行ってくれないかな、あの門番。

すると、オイラの目にとんでもない光景が飛び込んできた。
部屋の向こうの物陰で倒れていたはずの猫モが起き上がり、キャリーを踏み台にして音も無く窓からスルリと出て行ったんだ。
あの猫モの目の光らせ方は新たな獲物の匂いを嗅ぎつけた目だ…!
おっぱいへの執念で戦闘不能からリレイズしたのか。もう何でもありだなアイツ。

ともかく、このままじゃまた誰かが発情期の猫モの新たな被害者になってしまう。
はやく後を追わなきゃ…!というわけで邪魔だ門番!はやく出て行ってくれ。

「あいつ帰ってこねぇな〜。便秘か?なんか俺も便所行きたくなってきたぜ」

そう言って、ようやく門番は砲台から出て行ってくれた。
おかげでオイラはようやくアヤメにレイズすることができたんだけど、蘇生したアヤメはひどく不機嫌で、ちょっと怖かった。

それからオイラは猫モを追うために砲台を出た。
猫モにこれ以上騒ぎを起こされてはたまらないと、アヤメもついてきてくれた。
オイラはキャリーを引っ込めて肉汁でシラヴァードを呼び出し、猫モの匂いを追わせた。
レーダーとシラヴァードの鼻を頼りに追跡していくと…いた!猫モだ!遠目に女の子の後をつける猫モの姿が見えた。

「あれはコーネリア…!プレジデントのご息女よ」

猫モが狙いをつけている女の子を見て、アヤメが驚きの声を上げた。
大統領の娘!?マジか!そんな子に悪さしたらほんとシャレにならないんですけど…!

「警護を任されながらプレジデントの令嬢に手を出されたとあっては末代までの恥…!そうはさせてなるものですか」

アヤメの表情が険しくなった。
…娘どころか猫モは以前、酔っ払って大統領をボッコボコにした事があるんだけど、それをアヤメに知られたら斬られちゃうな。末代までの秘密にしておこう。
そうこうしているうちに、コーネリアと猫モは大工房の一室へと入って行った。
オイラはその後を追って部屋に飛び込んだんだけど…何だここ!?浴場の女湯か!?

脱衣所では数人の女性が着替えていたけど、オイラを女だと思っているのか、騒ぐ人はいなかった。
他の種族から見ると頭装備をかぶっているタルタルは性別がわかり難いみたいだな。
時々それで辟易する事があるんだけど、ともかく今は助かった。

ええと、猫モのヤツは…いた!
猫モはすでにすっぽんぽんになっていて、着替えるコーネリアの傍で小躍りしていた。
コーネリアは猫モが目をつけただけあって胸の大きな女の子だった。
その胸に視線を注ぐ猫モはだらしなくヨダレを垂らしまくっていて、今にもコーネリアに飛びつきそうだ。
オイラとアヤメはそれぞれの得物に手をかけ、猫モへの間合いを詰めた。

すると、こちらに気づいた猫モがアヤメの姿を見て固まった。

「ギ、ギニャ…。ガクブルにゃ〜…」

ん?猫モのヤツ、借りてきたネコみたいに大人しくなったぞ?
アヤメにひるみっぱなしで、コーネリアに悪さをするどころじゃないみたいだ。

あぁそうか。ミスラ族は自分より強い女性に従うんだっけか。
猫モはさっきの完敗で懲りたみたいで、アヤメに逆らう気は全くないようだった。
オイラとアヤメは拍子抜けして顔を見合わせた。

そしてコーネリアら脱衣所の女性達からの訝しげな視線に気づいて、オイラ達は慌てて戦闘態勢を解除した。

「剣を抜かずにすむならそれに越した事はないわね。穏便に片がついてよかった。せっかくだから汗を流していきましょう」

そう言ってアヤメは苦笑しながら装備を脱ぎはじめた。


アヤメの体は鍛錬で引き締められていて、ふくよかな姫や細身のナイマとはまた違った綺麗さだった。
同じ種族なのに全然違うんだな。面白いなヒューム族は。
すると、オイラの視線に気づいたアヤメが少し照れくさそうに微笑んだ。

「あんまり見られると恥ずかしいわ。ほら、あなたも着替えて。一緒にお風呂に入りましょう」

「い、いやオイラ男なんだけど…」

─それからオイラはアヤメにグーで殴られて浴場から放り出された。
アヤメもオイラを女だと思っていたらしい。
いたた…腰の入ったいいパンチだった…。

しばらくすると、アヤメが猫モの襟首を掴みながら浴場から出てきた。

「じゅ、銃士として不覚…」

アヤメはオイラを男だと見抜けなかったのがよほど悔やしかったみたいだ。
少し頬を染めて照れくさそうにしているアヤメは普段の大人びた印象とは違って年相応の女の子に見えた。

ともかくオイラはアヤメに礼とお詫びを言い、猫モを連れて大工房を出た。
さぁ、次は忍者取得クエのためにノーグに向かわなきゃ。

つづく (NEXT:おっぱいを継ぐ者)